IGLOO DIARY

2003年11月23日(日)

そして次は工藤さんのセットの出番。キヌタパン全員と、僕、ナツ、矢野君らはお客さんに押し出され外の階段で聴く。ドアのギリギリのところまでお客さんが詰まっているので、肩ごしに覗いても中崎さんしか見えない。まあ、中崎さんが見えるから構わない、とも言えるが。リハの段階で分かってはいたものの、やっぱり短い曲が続けざまに演奏される。3曲目ぐらいで皆、我に返り、階段に居ながらにして拍手をする。どの曲も数秒で終わってしまうが、どの数秒も確実に、的確にツボを狙って楔を打ち込んでくる。小林さんが嬉しそうに「ベアーズの中間あたりを思い出す」と言うので頷いた。あの時も、圧倒されっぱなしだった。スターパインズの時もそうだった。いつも工藤さんは、こっちが油断しているところを見計らうように、正確に感動させる。あるいは新しいものを提示してくる。今回も、ほとんど知らない曲。「九四国フェリーのテーマ」では、みんな一斉に法政モードになってそこら辺にあるものを叩いたり、足を踏み鳴らしたりしてノイズを出す。場内から、工藤さんの弾くカモメが聴こえてくる。「わたしは駐車場」は、9月にマジキックで歌ってもらってから、僕も法政の「赤い車」の間奏で歌った曲だが、初めてちゃんとした演奏を聴くことができた。いい曲だ。次は「末日記」と同じ進行だなあ、と思ったら、おもむろに「終わりの日には~」と歌が入ってきて、笑ってしまった。「trees」には歌詞がちゃんと付いて、しかも感動的。最後の方にはもう、感心するのも忘れ、アホになって拍手を繰り返すのみとなる。ラスト2曲では、ドラムの人と胡弓の人が加わって究極的にカッコイイ爆弾が2つ。これも逆に素直過ぎて意表を突かれて、すっかり穴だらけになってしまった。工藤さん、また英語モードに戻りつつあるのだろうか。それにしてもカッコイイ。1時間ほどかけて、全70曲を完奏。予想していた「confession」「honey」「bright lights」などは、演らなかった。ヒートアップした場内にふたたび潜り込み、yumboのセッティングをする。それにしても工藤さんの後にトリを勤めるのは、軽く引き受けたものの、やはりあの演奏を聴いてしまうと今さらながら荷が重い。混乱しないよう、楽しもう、楽しもうと自分に言い聞かせる。最初に戸田君に協力してもらってサウンドチェックをし、yumbo開始。1曲目は「さようなら」。狭い所で演奏したほうが効果があるに違いないと思い、法政から外した曲だが、どうだったろうか。途中、構成がちぐはぐになって混乱したりしたが、どうにか演奏。大正琴の鳴りが急に悪くなり戸惑う。調律も一気に変になった。2曲目は「ケーキ」。何度も練習したので大丈夫と思ったら、さっそく間違ってしまった。演奏を中断し、ふと客席を見るとさっちんと福ちゃんが居たので、思わず「こんにちは」と言ってしまう。仕切り直してまた最初から。今度も細かいミスタッチがあり、工藤さんの真似をして「ソーリー」と言う。3曲目「小さな穴」。大野さんの調子が上がってきて、細かいミスはあったものの全体がまとまる。次は久し振りにやる「八王子」。リハの時よりも気合いを入れて弾いたら、山路さんや大津さんにうまく伝染して、初めて思ったように演奏できた。「updates-」の宣伝を挟み、5曲目は「敵」。間奏で「わたしは駐車場」を歌うのはあらかじめ決めていたことだったが、たまたまその前に本人が歌っていたので、会場のリアクションが大きい。それで図に乗って「末日記」も歌ったら、入口付近に居た工藤さんから「バカヤロー!」という声が飛んできた。大成功。今回のyumboの演奏中、(全く個人的にだが)最高に楽しい瞬間だった。6曲目は「味方」。法政でも演奏したし、狭い会場ではどうかなと思ったが、よく分からず。これは外しても良かったかもしれない。7曲目は「The Black Nation」。ベースを弾く。大野さんの歌い出しが早く、大津さんのイントロのソロが半分にされてしまったが、まずまずの出来。8曲目「電波」。ナツと山路さんのダブル・メロディオンが効果的に鳴っていたと思う。ラストの大野さんの即興も良かった。9曲目はいよいよ、全員演奏の「家」。小林さんペット、大内さんダルシマー、コーラスの「家家ガールズ」に阿佐美さん、ももさん、おこめちゃん、関さんアコギ、工藤さんベースという大所帯。演奏が始まると、音の厚さに驚く。ベースが入るとこんなに違うものだろうか。しかも工藤さんのベースは声のように生き物のように、どんどん曲に食い入ってくる。コーラスも、法政の時(あれはあれでフワフワしてて良かったが)よりハッキリ聴こえて嬉しい。エンディングの即興部分は、はるちゃん、ナツ、小林さんのブラスの波が心地よく、いつまでも聴いていたいと思った。いよいよラスト10曲目「最後の歌」。今回のメインとして持って来た新曲だったが、結果は果たして如何なものかという感じ。やはり僕の大正琴のピッチの狂いが痛すぎた。大野さんが音程を取りづらくなるのである。全体にぎくしゃくし過ぎたかもしれない。これなら、「最後の歌」は中盤に持って来て、「家」をラストにすべきだったかなと、若干後悔。しかしまあ何とか終了。拍手をもらってホッとする。終演後、モリイさん、清成さん、アンデルセンズの小林さん、浜田さんの友達という人、竹下さんと河野さんなど、何人かと話す。次々に話すので何だか勿体ない。極めつけは武智夫妻。タレントを前にするような気分で「....本物だ」と思う。武智さんは想像通り、穏和を絵に描いたような人で、素敵なパートナーの尚子さんと一緒に居る様子が何とも微笑ましかった。近所に住んでいたら、きっと頻繁に互いの家に遊びに行くだろうなと瞬時に思わせる何かがあった。大津さんはすっかり疲れて、いち早くホテルへ帰る。パーティー状態が通り過ぎて、怒濤の撤収が始まる。人数が多いので、うろうろしているうちにどんどん片付けられていく。再び戸田君の車に積み込んでひと安心。立ち話などして遊んでいたら、工藤さんがアートランドの前をほうきで掃いていた。支度が整い、今度は打ち上げ会場へ皆で移動。山路さんとはるちゃんは電車が無くなるので駅前で別れる。打ち上げは近くの居酒屋「よろこんで」。メンツは関さん、ももさん、阿佐美さん、大内さん、小林さん、工藤さん、小野崎さん、おこめちゃん、小林さん、鯉淵君、矢野君、シュウさん、ナツ、大野さん、僕で計15名、だったと思う。今日の動員は55人で、アートランド史上第2位を記録したという。しかも、冷静に考えると演奏された曲は全部で99曲。これもまた狂っているとしか言いようがない。とにかく幸せなイベントだったことは間違いない。ある一点を除けば、だが。打ち上げは1:00過ぎにはお開きとなり、皆で駐車場まで歩く。関さんは取り敢えず矢野君とシュウさんをマジキックへ乗せて行き、残りの人間はももさん宅へ大移動。到着して間もなく、関さんのピストン輸送第2便が到着し、工藤さん、小野崎さん、おこめちゃんはマジキックへ去る。残った者で、ももさんお勧めのテレビショッピングの番組を肴にあれこれ話して爆笑。やがてピストン輸送第3便が来て、僕と大内さん、小林さんでデミオに乗り込み、三鷹へ戻る。関さんはもうヘロヘロになっていて、「酒が飲みたい」と言う。小林さんは明日仕事で早いというので、早々に休み、残った3人でしばし脱力しつつ雑談。「蝋」のジャケデザインの話題で俄かに盛り上がる。大内さんが寝てしまったので、昨夜と同じく僕と関さんはダイニングに場所を移してまだ話す。2食目のハッシュドビーフも美味。互いのバンドの事や、それまで喉につかえてあまり話せなかったことなどを、眠気で思考のまとまらない脳をフル稼動させて話す。この2日間は、関さんとよく喋ったと思う。8:00頃になって、関さんはまだ話したいことがあったようだし、僕もそうしたかったが、なにしろ身体も脳も停止寸前だったので、意を決して眠ることにする。大内さんの隣の布団に潜り込んで横になり、目を閉じると、今日の演奏の様子がありありと再現された。


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